ローファットかローカーボか
低炭水化物食、地中海食、低脂肪食のダイエット効果に関するイスラエルの研究結果を、最近いろんなところで目にします。日本語の記事では「3種類とも大きな違いはない」、「これからはローカーボもOK!」みたいな論調が多かったけど、オリジナルの記事に目を通してみたところ、糖尿病患者にとっては見逃せない結果もいろいろあったのでここに取り上げてみました。
イスラエルのベングリオン大学とアメリカのハーバード大学が共同して行ったこの研究、2年という長い歳月に渡って経過を観察した点と、職場ぐるみでしかも社員食堂と連動することで84%という高い継続率を維持できたことがデータの信頼性を高めています。
実験の詳細は以下の通りです。
【実験方法】
実験期間は2005年の7月から2007年の7月までの2年間。
場所はイスラエルのディモーナにある、某リサーチセンターの職場。
実験の対象となったのはBMI27以上の肥満があるか、BMIに関係なく糖尿病あるいは冠状動脈疾患がある322人(平均年齢:52歳、平均BMI:31、男性比率:86%)。
被験者は「カロリー制限のある低脂肪食」、「カロリー制限のある地中海食」、「カロリー制限のない低炭水化物食」の3種類の食事法にランダムに割り振られました。
●低脂肪食
アメリカ心臓病協会のガイドラインに基づいたカロリー制限のある低脂肪食。
摂取カロリーは女性で1500kcal、男性で1800kcal。カロリーの30%を脂肪から摂り、飽和脂肪酸の割合は10%、1日のコレステロール摂取は300mg。
脂質の摂取を制限するために脂肪分の少ない穀物や野菜、果物、豆を豊富に摂るよう指示されます。
(※低脂肪とは言いながら脂質30%は日本の糖尿病食より高脂肪・低炭水化物となっています)
●地中海食
適度な脂肪を摂取し、カロリー制限も行う。食材は野菜が豊富で赤身の肉は少ない。ビーフやラムの替わりにチキンや魚を用いる。女性には1500kcla、男性には1800kcalのカロリー制限を行う。脂質の割合は35%を超えない。主要な脂肪源は1日30~45gのオリーブオイルと一握りのナッツ。ウィレット&スクレットの提言に基づく食事法。
●低炭水化物食
炭水化物の摂取を抑えるだけで、カロリー制限はない。導入期となる最初の2ヶ月は1日20gの炭水化物を摂取。その後、減量を維持しながら徐々に最大1日120gまで炭水化物を増やす。カロリー、脂肪、たんぱく質の制限はないが、できるだけ植物由来の脂肪やたんぱく質を摂るようにし、トランス脂肪酸は避ける。アトキンスダイエットを基にした食事法。
【実験結果】
●全体の体重変化
低脂肪食:-2.9kg
地中海食:-4.4kg
低炭水化物食:-4.7kg
減量効果の最も高かったのが低炭水化物食。どうやら、脂肪を制限するより炭水化物を制限する方が痩せやすいようです。地中海式にはリバウンドがほとんどありません。
●女性の体重変化
低脂肪食:-0.1kg
地中海食:-6.2kg
低炭水化物食:-2.4kg
興味深いのは女性の減量結果。低脂肪でも低炭水化物でもない、地中海食がダントツに減量効果がありました。
●HDLコレステロール
低脂肪食:+6.3
地中海食:+6.4
低炭水化物食:+8.4
HDLコレステロールはどの方式も増えていますが、低炭水化物の増え方が一番多いです。
●中性脂肪
低脂肪食:-2.8
地中海食:-21.8
低炭水化物食:-23.7
減量効果もあってか、すべての食事法で中性脂肪は下がっていますが、地中海食と低炭水化物食でその効果が低脂肪食のそれを大きく上回っています。
●LDLコレステロール
低脂肪食:-0.05
地中海食:-5.6
低炭水化物食:-3.0
最初の6ヶ月で低炭水化物食のLDLコレステロールが増えていますが、これは導入機の超低炭水化物によるものでしょう。2年後のデータは低脂肪食を下回っています。
●総コレステロール/HDLコレステロール比
低脂肪食:-0.6
地中海食:-0.9
低炭水化物食:-1.1
実はこの数値がコレステロール管理では一番大事。低炭水化物食が一番いい結果になっています。
●アディポネクチン
低脂肪食:+0.8
地中海食:+0.8
低炭水化物食:+1.3
脂肪細胞から分泌される物質で、インスリン感受性を高めるなど、メタボリックシンドロームの抑止効果があるといわれています。これも低炭水化物食で最も増えています。
●空腹時血糖値(糖尿病患者)
低脂肪食:+12.1
地中海食:-32.8
低炭水化物食:+1.2
糖尿病患者で見る限り、低脂肪食で12mg/dl上がり、地中海食で32mg/dl下がっています。低炭水化物食は1年目まで順調に下がったものの2年目で2年目でなぜか上昇しています。
●空腹時インスリン(糖尿病患者)
低脂肪食:-1.5
地中海食:-4.0
低炭水化物食:-2.2
地中海食が空腹時のインスリン分泌を最も減らしました。インスリンの分泌が悪くなったというより、分泌の必要がなくなったということでしょう。いわば高インスリン血症の改善。
●HOMA-IR(糖尿病患者)
低脂肪食:-0.3
地中海食:-2.3
低炭水化物食:-1.0
インスリン抵抗性を示す数値。これは地中海食が最も好結果。
●ヘモグロビンA1c(糖尿病患者)
低脂肪食:-0.4
地中海食:-0.5
低炭水化物食:-0.9
空腹血糖値を最も下げたのは地中海式でしたが、ヘモグロビンA1cを最も下げたのは低炭水化物食。やはり食後の高血糖が抑えられるからでしょうか。
●肝臓ALT(GPT)
低脂肪食:(有意な変化なし)
地中海食:-3.4
低炭水化物食:-2.6
この数値が高いと脂肪肝ということになります。糖尿病患者はインスリンの効きが悪く、ブドウ糖の多くを肝臓で処理するため、肝臓に中性脂肪がたまりやすいのですが、これも地中海食、低炭水化物食で改善しています。
ローファットかローカーボかという比較でいえば、糖尿病患者が気になるほとんどすべての面でローカーボ(低炭水化物食)に軍配が上がっています。「脂肪を減らすカロリー制限食」にほとんど何の優位性もないことがこれでますますはっきりしましたね。
あと、ローカーボは無理という人でも、地中海食がかなり有効なことがこの研究からわかります。地中海食の定義は難しいのですが、今回の実験方法やアメリカ糖尿病協会のガイドラインなどを総合すると、
・炭水化物と一価不飽和脂肪酸(オリーブ油、キャノーラ油、ナッツ等)でカロリーの60~70%を摂る。
・炭水化物は全粒穀物、果物、野菜、豆、低脂肪乳などから摂る。
・ビーフやラムなどの赤味の肉ではなく、チキンや魚介類などを多く摂る。
というもの。
この原則に従うなら、なにもイタリアや南仏料理じゃなくても、和風の味付けで構わないわけですよね。「地中海式和食レシピ」、誰か考えてみませんか?
Weight Loss with a Low-Carbohydrate, Mediterranean, or Low-Fat Diet
コメント
非常に丁寧な解説文と共に拝読させて頂きました。
今後、自分の治療法選択肢を選ぶ際にも
参考になると思いました。
ありがとうございます。
これからも末永く更新を楽しみにしております。
Russelさん
コメントありがとうございます。
あの記事にはものすごく重要なことがいっぱい書いてあったので、
本当は全訳しようかととも思ったのですが、
とても手に負えず、このような形になってしまいました。
それでも、中身は十分伝わったと思います。
ローカーボ食の長期にわたる効果と安全性については
他にもいくつかの実験が進行中のようなので、そちらの方も結果が楽しみです。
ぜひ、今後の治療方針の参考にしてみてください。
英文記事を要約した日本語の情報は、必ず元文を読まなければならないということを。
要約文だと、それぞれの英語力、日本語力、解読力、文章力、ベースになる知識によって、主旨がズレてしまったり大事なことが見落とされてしまったりすることが、多々あるんですよね。
糖尿病については自分で読まなくても訳して提供してくれる人がたくさんいることに甘えていたんですが、これからは私も面倒くさがらないで自力で読もうと思います。(「赤ワインがインスリン抵抗性を改善した」というイタリアの大学の研究結果だけは自分で読んだことがあります)
でも、リンク先は長文・・・根性がいるなあ。私の専門とはかけ離れているし・・・(-_-;)
主人のHbA1cが5.4になりました。
最近は仕事のストレスで空腹時血糖値が高めだったり、お好み焼きを食べたりしてカーボも緩めていたんですが、それでもA1cが良くなったということは、カステーラさんの言った通り、膵臓が元気を取り戻してきているんですね(^^)
M先生は「5.2以下を目指せますよ」とおっしゃるのですが、このままのんびり目指せたらいいなあと思います。
GUMIさん
真実を知ろうと思ったら、元を当たることです。
仕事で毎日英文の記事を読んでいたんだったら、GUMIさんも大丈夫ですよ。
僕なんか学校で習っただけの英語だから、時間がかかってしょうがないけど。
糖尿病の専門用語は日本語との対応さえできてしまえばぜんぜん難しいもんじゃないです。
PCに英辞郎が入ってれば完璧です。

5.4%おめでとうございます。
M先生、相変わらず目標が高いなあ。
普通の医者なら6%を切った時点で目標達成、おめでとうございますのはずなんだけど。
まあ、プレッシャーにならない程度に頑張ってください。
すごく気になります☆
この記事はすごく興味深いです。
このイスラエルの実験で使用された地中海食は
●オリーブ油、キャノーラ油、ナッツ等
ということですが豆、果物、野菜では、具体的にどのような食材が使われていたのでしょうか?
青魚は質の良い油EPAが含まれてますし、普通に鯵とか秋刀魚のお刺身食べるので良さそうですよね?
私は糖質を押さえるのはもちろん大切と思っていますが、蛋白質や脂質の摂り方も気を配らなければならないと感じています。
日本人にはお肉を消化分解する力が弱いと感じるからです。
発酵食品や大豆製品、魚介類、ごま油等で結構蛋白質や脂質を摂れると思います。
糖質を制限しているのであとは何を食べてもいいというのは本末転倒かと思うのです。
私は糖尿病ではないですがヨガと食に関する指導をする仕事をしています。
こちらのblogにお邪魔して蛋白質を摂ってもインスリンが分泌される事を知りました。
知らない事がいっぱいあります。
イタリアンって優れたお料理なのも分かりました。
ちなみに新庄剛は足の怪我を少しでも回復させるのにほとんどイタリアンにしていたそうです。余談でしたね。。。
>ふうさん
せっかくコメントいただいたのに、返事が遅れて申し訳ありません。
この実験では、それぞれのグループに食事指導はしましたが、それぞれのルールにのっとる限り、なにを食べるかは個々の意思に任されていたようです。
ですので、具体的にどんな食材が使われたかの記載はありませんでした。
まあ、おそらく日本でふつうに食べられているものとそう大きく違うことはないと思います。
地中海食で大事なのは、精製された炭水化物を控えて、その分のエネルギーを良質な油から摂る。
タンパク質も動物のものを控えて魚介類から多く摂る、ということだと思います。
>ナターシャさん
コメントの返事が遅れて申し訳ありません。
糖質制限と同時に、良質な蛋白質や脂質の摂取が大切というのはその通りだと思います。
よく、カーボカウントというとカーボのことだけ考えていればいいのか、という人もいますが、一番大切なのが「カーボを摂りすぎない」ということなのであって、他にも考えなくてはいけないことは当然あります。
そのひとつは、動物性の飽和脂肪酸を控えて、オリーブ油やキャノーラ油などの一価不飽和脂肪酸を増やすということですし、当然、総カロリーに対する意識も必要です。
あとはやはりバランスですよね。三大栄養素と食物繊維が程良くミックスされた食事が、やはり血糖値を上げにくいと思います。
新庄と怪我とイタリアン。どんな根拠から結びついたものなんでしょうね。興味があります。(笑)
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