タンパク質は呼び水になるか?
インスリンの事前発動という記事を書いたとき、杉本先生に「タンパク質のインスリン刺激効果を使ってはどうか」というアドバイスをいただきました。
タンパク質もゆっくりと時間をかけてブドウ糖に変わるのは知っていましたし、その糖がインスリンの分泌を促がすのはわかります。しかし、タンパク質(アミノ酸)自体がインスリンの分泌を刺激するというのは知りませんでした。
ネットでいろいろ検索すると、順天堂大学の河盛先生のこんな説にたどり着きました。
人の静脈にアルギニン(アミノ酸の一種)を注射すると、確かにインスリンは分泌されますが、同時にグルカゴンも刺激されるというのです。グルカゴンが肝臓の糖新生を促し、そこから放出された糖をインスリンが処理するというわけです。これはほぼ同時に行われるので、血糖値には影響しないようです。
言ってみれば、アミノ酸が吸収されたとき、肝臓にあった糖を筋肉や脂肪細胞にほぼ瞬間的に移すという謎の儀式が行われていることになります。肉を食べるという善行に対して、体は速攻で筋肉にご褒美をあげるということなのかも知れません。芸をしたアシカへのご褒美は、ショーのあとじゃなくその場でってことなんでしょう。
まあ、これが本当だとしたら、1型糖尿病患者がタンパク質でもかなり血糖値が上がるというのも説明がつきます。1型患者からはインスリンが分泌されないので、グルカゴンによる糖の新生のみが起こっていると考えられるからです。
タンパク質のインスリン刺激効果は、グルカゴンとワンセットだとしたら、血糖降下効果はあまり期待できないかもしれませんが、少なくともインスリン生産工場のラインをあらかじめ始動しておく効果はあるような気がします。
とうことで実験です。
呼び水としてのタンパク質は日本ハムから出た糖質ゼロのロースハムです。1パック4枚でタンパク質6.7g。呼び水としてはちょっと少ないかな。
実験食は、先日「デンプンvs乳糖&果糖」でやったマーガリントーストです。あの時は呼び水なしだったので、比較しやすいと思います。
まず、糖質ゼロのロースハム35gを食べて1時間休憩。その後マーガリントーストをブラックコーヒーと共に食しました。血糖値の推移はこんな感じ。
ハムを食べて1時間で、血糖値は10mg/dl上がりました。炭水化物はゼロ、脂質も1gなので、3.5gのタンパク質が血糖上昇の原因と考えていいと思います。
さて、この3.5gのタンパク質に刺激されたベータ細胞が、食パンに含まれる45gの炭水化物をどう処理してくれるか、期待してその後の推移を見守りましたが、劇的な効果は見られませんでした。前回の呼び水なしの実験結果と比較したグラフがこれ。
この実験だけをもって、タンパク質に呼び水効果はないと結論付けることはできないと思います。もしかしたら、ハム4枚分のタンパク質ではインスリンの分泌を十分刺激することはできないのかもしれません。
しかし、だからといって呼び水だけのために、ハムを2パックも3パックも食べる気にはなりません。炭水化物による呼び水なら、クッキー2潤オ3枚で十分効果は見込めるのですから。
今度、時間があったら、同じ条件で炭水化物による呼び水実験をやってみたいと思います。
呼び水はカーボに限る
昨日のタンパク質による呼び水実験ときちんと比較したくて、今日もまた、カーボによる呼び水実験をしてしまいました。
ここで、呼び水とは何かをもう一度復習します。
私の場合、炭水化物を摂ると食後1時間前後で血糖値がピークに達し、その反動でインスリンが出すぎるため、3時間前後で逆に低血糖気味になります。ですから、食後2時間ぐらいでデザートを食べても、ほとんど血糖値は上がりません。
この特性を利用して、炭水化物を大量に摂らなくてはいけないとき、その1時間とか2時間前に、少量の炭水化物を摂っておくと、血糖値のピークはかなり抑えられます。この食前に摂る少量の炭水化物を「呼び水」と呼んでいます。
今回、呼び水として使ったのは森永のクッキー。4枚でカーボ量約24gです。
食前の血糖値は117mg/dlでした。クッキーを4枚食べ、1時間後に血糖値を測ると165mg/dl。やっぱりしっかり上がっています。これを呼び水にして、いつものマーガリントースト90g(カーボ量45g)をブラックコーヒーと一緒に食べます。
血糖値の推移はこうなりました。
60分で下がったのはクッキー用のインスリンが効いてきたのでしょう。90分で再び上がったのは、トーストのカーボ吸収がピークを迎えたからかな。いずれにしても、食前の血糖値からほとんど上がっていません。カーボによる呼び水効果は明白です。
トーストだけの場合と、1時間前に呼び水としてクッキーを食べた場合のそれぞれの血糖値の推移をグラフにしてみました。
確かに呼び水をした場合、血糖値のピークは抑えられます。しかしその分、高血糖の時間は長引きます。曲線下面積の比較ではほとんど変わりない感じです。グルコーススパイクが血管を痛めるという説からすると、呼び水でピークを叩いたほうがいいような気もしますし、高インスリン状態がいけないとすれば呼び水が必ずしも有利かどうかは判りません。
まあ、私はこれからも大量のカーボをとらなくてはいけないとき、状況に応じて使っていこうと思っていますが。
好奇心の赴くままに実験を繰り返していたら、血糖値もセンサー代も大変なことになってしまいます。ここらで本当に一休みしないと。
夫婦でちゃんぽん
日曜日の昼食は冷凍のちゃんぽんでした。
1食あたりのカロリーは429kcal。炭水化物は61.7g。カロリーに占める各栄養素の割合は炭水化物=58%、脂質=21%、タンパク質=21%。現在の日本の糖尿病食としてはまさに理想的な栄養配分です。
私の食前の血糖値は135mg/dl。朝食からはすでに4時間以上経ってるのに、ちょっと異常な高さです。
せっかく夫婦でまったく同じカーボ量を摂ったんだからと、食後1時間で妻の血糖値も測ってみました。結果は122mg/dl。健常者の食後血糖値としては妥当な値でしょう。
続いて私の血糖値を測ってみると、なんと99mg/dl。カーボ61gを摂ったにしては異常な低さです。
私の場合、「食前の血糖値が高いときは食後の血糖値は低い」という傾向があって、今回もそれが当てはまったのかなとは思うのですが、いくらなんでも低すぎです。しかも、食後4時間もたってるのに、なぜ食前値があんなに高かったのかも疑問です。
もしかしたら、朝食後2時間か3時間で低血糖気味になり、それを補うためにグルカゴンが過剰な糖新生を行ったのかもしれません。それが、次のインスリン分泌の呼び水になったと。
もしそうだとしたら、私の血管の中ではインスリンとグルカゴンによる過剰防衛的な復讐バトルが延々と続いていることになります。戦場となる血管内壁はたまったもんじゃありません。やっぱり、復讐バトルの引き金となる、炭水化物の摂取は最小限にってことでしょうか。
念のために測った食後2時間の血糖値も98mg/dl。
同じ60gのカーボを摂っても、200を超えることもあれば、100さえ超えないこともある。いったい私の膵臓はどうなっちゃってるんだろう。
カーボ45g記録会
先日、乳糖&果糖vsデンプンの血糖値比較をしましたが、その後も機会あるごとに、同じカーボ45gの血糖測定をしてみました。条件を揃えるために、すべて朝イチでの実験です。
●牛乳と梨
牛乳300ccと梨一個分(250g)。血糖値をあげにくいと言われる乳糖(グルコース・ガラクトース)と果糖(フルクトース)です。予想通り血糖値はあまり上がりませんでした。

カロリー=355kcal
炭水化物=45g
脂質=15g
たんぱく質=10g

●トースト
食パン1枚半(90g)にマーガリンを塗りました。デンプンの中でも最も血糖値を急激に上げるといわれる白パンでの血糖値測定です。マーガリンによるカーボ吸収遅延効果もそれほど見られないまま、血糖値は一気に上がりました。

カロリー=349kcal
炭水化物=45g
脂質=15g
たんぱく質=8.5g

●梅干し粥
白米120gをお粥にして梅干しを乗せました。ほぼ炭水化物オンリー。お粥は消化にいいといわれるだけあって、血糖値は30分で急上昇したものの、その後はやや頭打ち。梅干のクエン酸が糖吸収を抑えたのかもしれません。

カロリー=192kcal
炭水化物=45g
脂質=0g
たんぱく質=3g

●おはぎ
市販のおはぎ1個半です。従来の「甘いものはダメ」という常識からすれば最悪の食べ物ですが、甘さと言うよりはカーボ量の分だけしっかり上がりました。30分の立ち上がりがトーストより早いのは、脂肪の無さが原因かもしれません。

カロリー=196kcal
炭水化物=45g
脂質=0g
たんぱく質=4g

●果糖オーレ
牛乳300ccに粉末の果糖30gとインスタントコーヒーを溶かしました。強烈に甘い飲み物になりました。粉末の果糖は本当に血糖値を上げないのか調べてみたのですが、牛乳&梨とほぼ同じような血糖値です。牛乳&梨の方が立ち上がりが早いのは梨のブドウ糖とショ糖のせいかもしれません。


カロリー=355kcal
炭水化物=45g
脂質=15g
たんぱく質=10g

●朝マック
ソーセージエッグマフィンとハッシュブラウンとブラックコーヒーのセットです。高カロリー≠高血糖を検証してみたかったのですが、なんと血糖値の上がり方は一番少ないと言う結果に。カーボ単独での摂取がいかに血糖値を上げるかがよく判ります。

カロリー=603kcal
炭水化物=44g
脂質=38g
たんぱく質=21g

ここで、それぞれの血糖値の推移をグラフにしてみました。

■曲線下面積(AUC)の多かった順
①梅干粥
②トースト
③おはぎ
④果糖オレ
⑤朝マック
⑥牛乳・梨
■血糖値の上昇が急だった順(30分値の比較)
①梅干粥
②おはぎ
③牛乳・梨
④トースト
⑤朝マック
⑥果糖オレ
■血糖値のピークが高かった順
①おはぎ
②トースト
③梅干粥
④果糖オレ
⑤牛乳・梨
⑥朝マック
■血糖値の下がりが悪かった順(2時間値の比較)
①梅干粥
②トースト
③朝マック
④おはぎ
⑤果糖オレ
⑥牛乳・梨
カーボ45gの記録会。まだまだ続きそうな予感です。
●こんな面白いものがありました
食品名を選んで重さを測るだけで、カロリーやらカーボ量やらが表示されます。
10月の定期検査
近所のかかりつけ医で、3か月ぶりに血液検査をしてきました。
空腹時血糖値=118mg/dl
ヘモグロビンA1c=5.2%
病院で測る空腹時血糖値が基準値を超えたのは糖尿病発症当初以来かもしれません。理由はなんとなく判っています。
実は7月に血液検査をした時、体重は55kgを下回っていました。いくら療養のためとはいえ、BMI20を切るっていうのは気分的にもいいもんじゃありません。医者に相談したところ、体重はもうちょっと増やした方がいいということだったので、とりあえず食事制限のタガを緩めてみることにしました。
この3ヶ月間、カーボのカウントはしていましたが、制限はほとんどしませんでした。カロリーに占めるカーボの割合はたぶん50%ぐらいだったと思います。体重もあっという間に3kg増えました。
気がかりだったのはヘモグロビンA1cがどうなるかだったのですが、むしろ減っています。そのかわり、空腹時血糖値にしわ寄せが来ました。そいう言えば、今年の春もハイカーボ化で起床時の血糖値が上がったことがありました。少なくとも私の場合、ハイカーボはA1cより空腹時に影響してくるようです。
3ヶ月の間、カーボを普通に摂ってみてわかったのは、体重の増減はカーボ量の増減で簡単にできるということです。
炭水化物を抑えた脂肪中心の食事はそうそう量をたくさん食べることができないうえに、なかなかお腹が空きません。一方、炭水化物中心の食事はいくらでも入りますし、すぐにお腹が空きます。
ハイカーボ食は常に空腹のままどんどん体重が増えていく感じ。ローカーボ食は常に満腹のままどんどん体重が減っていく感じです。
体重管理にしても、血糖管理にしても、鍵となるのはやっぱり炭水化物ってことを改めて認識させられました。
学会トップに変化の兆し?
血糖コントロールにとって重要なのはカロリーではなくカーボであるという考え方は、患者レベルにはかなり浸透しつつあるような気がしますが、医者レベルではまだまだというのが実情のようです。
ところが最近、ちょっと気になる記事に遭遇しました。順天堂大学の河盛教授が『糖尿病ネットワーク』というサイトで書いた記事です。河盛教授といえば、以前、日本糖尿病学会の会長を務め、現在も役員名簿の2番目に名前を連ねるいわば学会の重鎮。今もそうとう影響力はあるはずです。
記事は糖尿病治療におけるトリグリセライド(中性脂肪)コントロールの重要性を説いたもので、その中でトリグリセライドを減らすための食事療法として次のように述べています。
前にお話ししたとおり、血糖コントロールはトリグリセライドを下げる方向へ働くので、食事療法の進め方も糖尿病の食事療法と基本的には同じです。ここでは特に重要なポイントをピックアップしてまとめておきます。
・炭水化物・糖分を摂り過ぎない
これも前回お話ししたことですが、トリグリセライドの日本語の名称「中性脂肪」には「脂肪」とついているものの、脂肪分の摂り過ぎだけでトリグリセライド値が高くなるのではありません。むしろ炭水化物の摂り過ぎが原因です。
炭水化物は体内で最終的にブドウ糖になり、それがエネルギーの源として使われ、余った糖分が「中性脂肪(トリグリセライド)」になります。トリグリセライドを上げないためには、余分なブドウ糖を増やさないようにすること、つまり、炭水化物や糖分を必要以上に摂らないことです。
さらに、 医療関係者向けの注釈の中では、次のように言っています。
糖尿病の食事療法の指導方法としては『糖尿病食事療法のための食品交換表』を用いる方法があります。『食品交換表』は便利な反面、やや難解なため、すべての患者さんが利用できるわけではありません。患者さんの理解力にあわせた個別指導が必要です。
栄養指導の‘初めの一歩’の段階では、「炭水化物を摂り過ぎをないようにするには、ごはんやパン、そば、うどんなどの『主食』の量に気をつけましょう」といった簡単なメッセージを伝えることが最も役立つこともあります。
つまり、トリグリセライドを下げる食事療法は糖尿病のための食事療法と同じで、最も重要なのは炭水化物を取り過ぎないことだと言っているのです。
さらに、食品交換表は一般の患者には難しいので、最初は「主食の量を気をつけるように」という指示が有効だとしています。これってまさに、食品交換表からカーボカウントへの脱却ですよね。
また、同じ『糖尿病ネットワーク』の中で、日本糖尿病協会の前理事長であり、現在、東北大学の名誉教授である後藤由夫氏も糖尿病の食事療法について次のように述べています。
ドイツの食事療法は炭水化物の量を中心に考えられており、その量はBrot Einheit(パン単位)として、パンの炭水化物量にすれば何単位かというものであった。近年は米国でも炭水化物のcarboと先の部分をとって呼び、これで炭水化物の摂取量を決めている。わが国では、交換表を用いるエネルギー中心の食事療法から抜け出せない状況なので、カーボ・カウントを受け入れるには年月がいると思われる。
(中略)
わが国では食品交換表ができてから40年以上にもなるが、患者さん方にはこの食事療法が覚えにくく複雑なようである。もっと簡単で使いやすいものに作り替える工夫と努力をするべきであろう。カーボ・カウント法が出てきたのでわが国でも考えみる必要があるのではなかろうか。
食品交換法を専門職の人たちは良く理解していても、これを利用される患者さんたちが手軽に利用できないのでは問題である。現在、改訂が進められている日本糖尿病学会編「治療ガイド」をみても、食事療法は従来のものと変わっていない。実情に即したものに替えることを考える時期に来ていると思われる。
これなんかもまさに、実情に合わない食品交換表などやめて、カーボカウントに移行せよというメッセージです。
トップの偉い先生たちも、やっぱり解ってはいるんですね。にも関わらず、学会の方針転換につながらないのは、なにか大きな力でも働いているのでしょうか? たとえば、製薬会社の圧力とか…。
非加熱製剤や乳房温存術が導入された経緯を見ても、日本の医療というのは変化を嫌い、従来のやり方に異常なほど固執する体質があると思います。それを打ち破るためには、やはり患者側が声を上げて、医療側を変えていくしかないのかもしれません。
●糖尿病性血管障害のより確実な抑止のために
http://www.dm-net.co.jp/tg/tg03-11.htm
●私の糖尿病50年
http://www.dm-net.co.jp/gotoh/2007/12/60.html
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