薬なんていらない
インスリン抵抗性改善薬としてアメリカでポピュラーな「アバンディア」という薬が、心臓病死のリスクを64%も高めるとして問題になっている話は以前もしましたが(5月24日のブログ参照)、今日、アメリカ糖尿病協会(ADA)のサイトを見ていたら、アメリカの食品医薬局(FDA)は「アバンティア」と「アクトス」に対して、心疾患のリスクをもっと明確に表示するよう指導したとありました。やはりアクトスも心臓に対してはかなりヤバイようです。
そもそもインスリン抵抗性とは何でしょう? 私の理解では、内臓脂肪をたっぷり抱え込んだ体が、もうこれ以上の脂肪はいらないと、原料となるブドウ糖の取り込みを拒否する、いわば防御反応のはずです。体が要らないといっているブドウ糖を、なぜ薬を使ってまで取り込もうとするのでしょうか?
まあ、お医者さんとしては、脂肪細胞からから拒否されたブドウ糖は血管を痛めつけるからということでアクトスを処方するのでしょうが、であるならまずはブドウ糖の原料である炭水化物の摂取を制限することが最初じゃないですか?
人間の体というのはうまくできていて、インスリンの抵抗性が極限にまで達すると、ブドウ糖はオシッコと共に体外に捨てられ、たっぷり蓄えられた脂肪を燃やし始めます。これがいわゆる糖尿病による激痩せです。こうやって人間は薬なんか飲まなくても、体を正常に戻そうとする力があるのです。
しかし今の医療は、アマリールで弱った膵臓からインスリンを絞り出し、アクトスで要らないといってる脂肪細胞にむりやりブドウ糖を押し込めます。で、ますます内臓を脂肪を増やし、さらなる悪影響をもたらすのです。
もう一度言います。インスリン抵抗性が始まるということは、体がこれ以上のブドウ糖は要らないと言っているのです。その悲痛な叫びを無視して炭水化物を取り続けるから、やがてすい臓が壊れて、糖尿病になるのです。
解決策はアクトスでもアマリールでもありません。まずは、炭水化物を制限することです。誰が考えても理に適っていることだし、欧米では当たり前に行われていることです。
薬なんていらない(その2)
せっかくなので、さらに薬の話を続けます。
糖尿病の薬に「αグルコシダーゼ阻害薬」というのがあります。製品名ではグルコバイとかベイスンと呼ばれています。炭水化物の消化酵素に働きかけ、吸収を悪くすることで血糖値の上昇を抑えようという薬です。私はこれほど糖尿病患者をバカにした薬もないと思っています。
解りやすくいえば、10食べた炭水化物を8しか食べなかったことにしようという薬です。だったら最初から8だけ食べておけばいいじゃないですか。残りの2を脂質やたんぱく質で補っておけばいいじゃないですか。それじゃだめな理由でもあるのですか?
私の知り合いでもけっこうこの薬を処方されている人は多いですが、決して安全な薬ではないです。これまで副作用による劇症肝炎で5人の死亡が確認されています。ご飯の量をちょっと少なくすれば済む薬で、命を落としてしまってはたまりません。
実はこの薬、痩せる効果もあるということですが、これってまさに炭水化物制限の効果そのものですよね。
糖尿後進国・日本
たまたまたどり着いた「糖尿病ネットワーク」の『私の糖尿病50年』というコーナーで、驚愕の事実を知ってしまいました。なんと日本では1981年までインスリンの自己注射は認められていなかったというのです。
以下、当該サイトからの引用です。
小児糖尿病はインスリン注射さえ十分に行えば元気に成長してゆける。現在のこの常識は40年前は通用しなかった。何よりも障壁となったのは、インスリンの自宅注射(自己注射)を医師会が認めなかったことである。
(中略)
このような状況だったのでいろんなことに恵まれた人でなければ治療を続けることは困難であった。悲しい報せを何度も聞いたがどうすることもできなかった。
欧米の本をみると、インスリンの自己注射は当たり前のことで、インスリン注射を続けながら成長してゆく楽しそうな写真が沢山載っていて、日本でもこのようにならないかなあ、と思うばかりであった。
ジョスリンの糖尿病手引きにある2歳11カ月の小児が
インスリン注射をしている写真
第7版,122頁,1941年
要するに当時の日本の医師会は「注射」という医者の特権を手放したくなかったのでしょう。「注射が必要な病気なら、1日2回でも3回でも病院に足を運んで医者に打ってもらえばいいじゃないか」というという発想です。患者の利益より、あくまで自分たちの利益優先なのです。
結局、世界で当たり前のこととして行われているカーボカウンティングが、日本で否定され続ける理由も、こんなところにあるような気がしてなりません。
食事の炭水化物を制限すれば血糖値は上がらないので、インスリンを含めた薬の消費は明らかに減ります。しかし、患者の負担軽減は医者や製薬会社の利益軽減でもあるのです。
薬害エイズ事件でも明らかになったように、危機感を持った製薬会社は、研究費という名目の多額の金品や、天下り先という甘い餌で、医学会の権威や厚生労働省の役人をいとも簡単に動かします。そう考えれば、理由にならない理由をつけてカーボカウンティングを否定する、糖尿病の偉い先生たちの言動も分からないではありません。
ただし、そんな医療行政の闇の部分とは別に、糖尿病の現場で働いてきた医師たちの苦難の足跡を知るという意味では、非常に興味深いサイトではありました。
糖尿病患者への長い旅
糖尿病の発症と進行のメカニズムを私なりに考えてみました。あくまで自分自身のこれまでを振り返った「私なり」の考えなので、医学的な反論はあろうかと思います。(併記したヘモ値も勝手な推測です)
①生まれつきの要素に老化が重なったりすると、インスリンの出が少しずつおかしくなってきます。ブドウ糖が体に吸収されるタイミングよりちょっと遅れて、結果的には出すぎてしまうというやっかいな分泌パターンを繰り返します。いわゆるインスリンの遅延過剰分泌の始まりです。
ヘモグロビンA1c:4.8%
②遅れて大量に出されたインスリンは血糖値を下げすぎてしまうため、異様な空腹感に襲われます。食後わずか2時間とか3時間しか経ってないのに、甘いものというか炭水化物がが欲しくてたまらなくなるのです。ここで我慢できずにお菓子などを口にすると、再びインスリンの遅延過大分泌、低血糖が起こり、また甘いものが欲しいと言う悪循環に陥ります。これがいわゆる糖尿病による異常な食欲の始まりです。
ヘモグロビンA1c:5.0%
③炭水化物をを摂る、インスリンが出すぎる、炭水化物を摂る、インスリンが出過ぎるということを繰り返していくうちに、お腹の周りにはたちまち脂肪が蓄えられていきます。いわゆる内臓脂肪型肥満の始まりです。
ヘモグロビンA1c:5.2%
④インスリンの分泌異常に起因する内臓脂肪の蓄積は、とどまるところを知りません。脂肪細胞の数は思春期を過ぎると基本的には増えないので、細胞ひとつひとつが大きくなることで対応するしかないのですが、それにも限界があります。そうなると脂肪細胞はブドウ糖を受け渡そうとするインスリンの呼びかけを無視し始めます。いわゆるインスリン抵抗性の始まりです。
ヘモグロビンA1c:5.5%
⑤脂肪細胞の抵抗にあったベータ細胞は、インスリンの分泌量を大幅に増やすことで対抗し、なんとか体の中に有り余る糖を処理しようとします。いわゆる高インスリン血症の始まりです。
ヘモグロビンA1c:5.5%
⑥血液中を大量に流れるインスリンは、ブドウ糖を無理やり脂肪細胞に押し込もうとするほか、高血圧や動脈硬化を引き起こし体をボロボロにしていきます。これに危機感を感じた体は、ベータ細胞を危険な存在として抹殺を図ろうとします。いわゆるベータ細胞のアポトーシス(自然死)の始まりです。
ヘモグロビンA1c:5.8%
⑦アポトーシスのスイッチが入り、やがてベータ細胞の数が半分以下にまで死滅したとき、インスリンは十分な量を確保することができず、血糖はコントロール不能となります。これがいわゆる糖尿病の発症です。
ヘモグロビンA1c:6.5%以上
この7段階を経るまでに、通常10年~20年がかかるといわれています。糖尿病患者の思いとしては、この7段階・12年間の間に何か食い止める手段はなかったのかということです。
まず、最初のインスリンの出が悪くなるのは仕方ないことです。体質だったり老化だったりするのですから。しかし、炭水化物を摂り過ぎないようにさえすれば、インスリンの過大分泌は抑えられます。ここにひとつ糖尿病を食い止めるチャンスはありました。
それ以降の内臓脂肪型肥満とそれに伴うインスリン抵抗性が始まってしまうと、炭水化物への欲求はますます強まります。しかし、そこで意思を強くして、炭水化物の摂取をコントロールすれば、ベータ細胞のアポトーシスという致命的なダメージは食い止めることができたのではないかと思っています。
メタボ検診が始まり、ヘモグロビンA1cが5.2%から注意が促がされるようになりました。このとき、指導対象となった人にぜひ伝えて欲しいのは「あたなはインスリンの分泌異常から、普通の人にはない異常な食欲が起こっている可能性がある」ということです。「その異常な食欲を抑えこむためにも、炭水化物の量には注意した方がいい」という事です。
まあ、糖尿病患者にさえ「炭水化物に注意しろ」とは言わない国ですから、それは無理なんでしょうけど。
学会トップに変化の兆し?
血糖コントロールにとって重要なのはカロリーではなくカーボであるという考え方は、患者レベルにはかなり浸透しつつあるような気がしますが、医者レベルではまだまだというのが実情のようです。
ところが最近、ちょっと気になる記事に遭遇しました。順天堂大学の河盛教授が『糖尿病ネットワーク』というサイトで書いた記事です。河盛教授といえば、以前、日本糖尿病学会の会長を務め、現在も役員名簿の2番目に名前を連ねるいわば学会の重鎮。今もそうとう影響力はあるはずです。
記事は糖尿病治療におけるトリグリセライド(中性脂肪)コントロールの重要性を説いたもので、その中でトリグリセライドを減らすための食事療法として次のように述べています。
前にお話ししたとおり、血糖コントロールはトリグリセライドを下げる方向へ働くので、食事療法の進め方も糖尿病の食事療法と基本的には同じです。ここでは特に重要なポイントをピックアップしてまとめておきます。
・炭水化物・糖分を摂り過ぎない
これも前回お話ししたことですが、トリグリセライドの日本語の名称「中性脂肪」には「脂肪」とついているものの、脂肪分の摂り過ぎだけでトリグリセライド値が高くなるのではありません。むしろ炭水化物の摂り過ぎが原因です。
炭水化物は体内で最終的にブドウ糖になり、それがエネルギーの源として使われ、余った糖分が「中性脂肪(トリグリセライド)」になります。トリグリセライドを上げないためには、余分なブドウ糖を増やさないようにすること、つまり、炭水化物や糖分を必要以上に摂らないことです。
さらに、 医療関係者向けの注釈の中では、次のように言っています。
糖尿病の食事療法の指導方法としては『糖尿病食事療法のための食品交換表』を用いる方法があります。『食品交換表』は便利な反面、やや難解なため、すべての患者さんが利用できるわけではありません。患者さんの理解力にあわせた個別指導が必要です。
栄養指導の‘初めの一歩’の段階では、「炭水化物を摂り過ぎをないようにするには、ごはんやパン、そば、うどんなどの『主食』の量に気をつけましょう」といった簡単なメッセージを伝えることが最も役立つこともあります。
つまり、トリグリセライドを下げる食事療法は糖尿病のための食事療法と同じで、最も重要なのは炭水化物を取り過ぎないことだと言っているのです。
さらに、食品交換表は一般の患者には難しいので、最初は「主食の量を気をつけるように」という指示が有効だとしています。これってまさに、食品交換表からカーボカウントへの脱却ですよね。
また、同じ『糖尿病ネットワーク』の中で、日本糖尿病協会の前理事長であり、現在、東北大学の名誉教授である後藤由夫氏も糖尿病の食事療法について次のように述べています。
ドイツの食事療法は炭水化物の量を中心に考えられており、その量はBrot Einheit(パン単位)として、パンの炭水化物量にすれば何単位かというものであった。近年は米国でも炭水化物のcarboと先の部分をとって呼び、これで炭水化物の摂取量を決めている。わが国では、交換表を用いるエネルギー中心の食事療法から抜け出せない状況なので、カーボ・カウントを受け入れるには年月がいると思われる。
(中略)
わが国では食品交換表ができてから40年以上にもなるが、患者さん方にはこの食事療法が覚えにくく複雑なようである。もっと簡単で使いやすいものに作り替える工夫と努力をするべきであろう。カーボ・カウント法が出てきたのでわが国でも考えみる必要があるのではなかろうか。
食品交換法を専門職の人たちは良く理解していても、これを利用される患者さんたちが手軽に利用できないのでは問題である。現在、改訂が進められている日本糖尿病学会編「治療ガイド」をみても、食事療法は従来のものと変わっていない。実情に即したものに替えることを考える時期に来ていると思われる。
これなんかもまさに、実情に合わない食品交換表などやめて、カーボカウントに移行せよというメッセージです。
トップの偉い先生たちも、やっぱり解ってはいるんですね。にも関わらず、学会の方針転換につながらないのは、なにか大きな力でも働いているのでしょうか? たとえば、製薬会社の圧力とか…。
非加熱製剤や乳房温存術が導入された経緯を見ても、日本の医療というのは変化を嫌い、従来のやり方に異常なほど固執する体質があると思います。それを打ち破るためには、やはり患者側が声を上げて、医療側を変えていくしかないのかもしれません。
●糖尿病性血管障害のより確実な抑止のために
http://www.dm-net.co.jp/tg/tg03-11.htm
●私の糖尿病50年
http://www.dm-net.co.jp/gotoh/2007/12/60.html
患者の力
病院の待合室でのこと、糖尿病と思われる初老の男性が、たまたま隣に座った患者にこんなことを話してました。
「わたしなんか、肉とか油物はここ10年くらいほとんど食べてないですよ」
そんなこと、いったい誰に教わったのでしょう?
また、ある糖尿病患者のブログを見ていたら、1日の食事が載っていました。それはこんな内容でした。
【朝】ご飯、蕎麦
【昼】雑炊、スパゲティ
【夜】うどん、リンゴ
見事に炭水化物オンリーです。医者はそのことを知っているのでしょうか。
さらに、ネット上のあるコミュニティではベテラン糖尿病患者がこんな発言をしていました。
「空腹が耐えられなくなった時は、薄いお粥を腹いっぱい食べてしのぎます」
私の知る限り、薄いお粥なんて砂糖水並みに血糖値を上げるのに。
非常に残念なことですが、これが日本の糖尿病患者の多くが信じる、「正しい糖尿病食」なのです。どの患者もきちんと病院に通い、医者の指導も受けているはずなのに、なんでこんなデタラメがまかり通ってしまうのでしょう。
それは、患者に食事を指導する医者が、なんにも判ってないからです。私にはそうとしか思えません。
日本のたいていの医者は、糖尿病患者にカロリー制限を指導します。身長から標準体重を割り出し、それに25~30をかけた数字がその人の摂取カロリーです。私は1520kcalに抑えるように言われました。指導はただそれだけ。食品交換表の話もありませんでした。
カロリー制限に加えて、砂糖と油物は控えるようにという指導をする医者もかなり多いようです。しかし、砂糖がダメでご飯はOKの意味が私には判りません。どちらも最終的にはブドウ糖になって血糖値を上げるのですから。
また、油の摂取を控えれば控えるほど、その分カロリーは炭水化物に依存することになります。炭水化物は血糖値を上げ、中性脂肪を増やし、最終的には内臓脂肪として蓄えられ、それがさらに糖尿病を悪化させるのです。
私は糖尿病になってから、ノンオイルドレッシングを使ったことがありません。いつもオリーブ油の入ったイタリアンドレッシングを使っています。また、野菜炒めもキャノーラ油をたっぷりと使っています。体にいい一価不飽和脂肪酸を摂るこことで、炭水化物の摂取を減らせるからです。
諸悪の根源は、「高カロリー=高血糖」という誤解です。恐らく、日本の内科医のほとんどは、カロリーが血糖値を上げると思っているのではないでしょうか。しかし、ステーキやフライドチキンなど、いくら食べても血糖値はほとんど上がりません。ところが、おにぎり1個、パン1枚で血糖値はびっくりするほど上がるのです。
今、世界の先進国で糖尿病患者に炭水化物の制限を指導しない国は、ほとんどないといっていいでしょう。アメリカでも、イギリスでも、フランスでも、ドイツでも、スペインでも、糖尿病患者がまず最初に言われるのはカロリー制限ではなく、炭水化物の制限なのです。
ではなぜ、日本だけがこんなことになっているのでしょう。なぜ、日本の糖尿病患者だけが、炭水化物まみれの食生活を強いられなければならないのでしょう。その責任はすべて、日本糖尿病学会にあると私は思っています。
糖尿病を専門に研究している医者が、炭水化物と血糖値、炭水化物と中性脂肪、炭水化物と肥満の関係を知らないはずがありません。低炭水化物食が糖尿病を改善するといういくつもの研究データを目にしないはずがありません。にもかかわらず従来のやり方を変えようとしないのは、きっと何か思惑があるのでしょう。それが、利害なのか単なる面子なのか、私には判りませんが。
学会のこのような、よく言えば怠慢、悪く言えば横暴がまかり通ってしまう原因のひとつに、日本の患者が大人し過ぎるというのがあるような気がしてなりません。
情報の波間を漂う糖尿病患者の多くは、カーボカウントという、カロリーではなく炭水化物に注目した食事療法があることを知り、やがてそれが非常に効果的であることを、身を持って体験することになります。しかし、残念ながら多くの患者は、そのことを医師に隠してしまうのです。
日本人の場合、医師は先生であり、絶対服従すべき存在であるという意識がまだまだあるのかもしれません。しかし本来、医師と患者は対等であるはずです。治療方針は医師と患者の双方が合意した上で決められなくてはならないはずです。医師は患者の納得できないやり方を押し付けるべきではないし、患者もまた、納得できないやりかたに黙って従うべきではありません。
患者はまず医師に対して、「カーボカウントでやりたい」あるいは「糖質制限でやりたい」ということをはっきり伝えるべきです。「カーボカウントってなに?」っていう医師にはしっかり勉強してもらいましょう。その上で、「カーボカウントには賛同できない」、「カーボカウントを指導する自信はない」という医師には、カルテの写しをもらい、病院を変えるしかありません。
カロリー制限を指導する病院は閑古鳥が鳴き、カーボカウントでいく病院は活況を呈すということになれば、医師も変わらざるを得ないはずです。
とにかく大事なのは、患者がはっきりと声を出して、自らの意思を医療側に伝えていくことです。そして、患者もまた治療方針の決定にかかわっていくことです。幸か不幸か糖尿病の場合、治療の主体は医師ではなく患者にあります。患者自身が戦略を立て、患者自身が努力することで、結果を出すことが十分可能な病気なのです。
「1990年代の頃から、世界の糖尿病治療の流れはカーボカウントにあったのに、日本の糖尿病学会だけがカロリー制限主義に固執したため、私は失わなくていい視力と足と腎機能をを失った」という声がいずれ出てくるのではないかと私は思っています。それは患者にとって不幸なことですし、医師にとっても不幸なことです。
そうならないためにも、糖尿病学会は一刻も早く、カーボカウントというオプションを認めるべきですし、患者側もその決定を促がすための行動を起こしていかなければならないのではないでしょうか。そのひとつとして、このブログも何らかの力になれたらと思っています。
グリセミック・インデックスの怪
私の楽しみにしているブログのひとつに「どらねこ日誌」があります。管理人はおそらく栄養学を職業にしている方だと思うのですが、私みたいな文系人間には到底およばいな科学的な視点と、文才を持ち合わせた科学者独特のシニカルな筆致が心地よく、私にとっては秘かな憧れでもあります。
そんな「どらねこ日誌」に最近、コショウのグリセミック・インデックスを扱った記事がエントリーされたのですが、私が日ごろ感じていたグリセミック・インデックスの問題点を、実にうまいこと表現してくれていました。
ご存じのとおり、グリセミック・インデックス(以下GI値)とは、ある食品の血糖値の上がりやすさを指数化したものです。
食後の血糖値を上げるのは炭水化物ですが、同じ量の炭水化物でもどんな食品に含まれるのかによって血糖値の上がり方が違います。たとえば、白い食パン100gには約50gの炭水化物が含まれています。また、スパゲティ70gにもやはり約50gの炭水化物が含まれています。
白い食パン100gとスパゲティ70g。どちらも同じ50gの炭水化物を含んでいいるのだから、血糖値の上がり方は同じかというと、そうではありません。パンの方が血糖値が上がりやすいのです。一般的に食パンのGI値は95、スパゲティのGI値は55とされています。
このGI値はどうやって求めたかというと、大勢の被験者を集めて、実際にいろんな食品から50gの炭水化物を食べてもらい、その後の血糖値の推移をグラフ化して、その曲線下面積を比較することで求めているのです。
ところが、ネット上に上がっているいろんなGI値表を見ると、けっこういい加減なものがたくさんあります。
どらねこさんも指摘していたように、コショウのGI値73っていったいどうやって調べたのでしょう。まさか、炭水化物50gを含む、75gものコショウを実際に食べたとはとても思えません。
同じような疑問は他の食品にもあります。ネットには肉やバターのGI値を掲載しているものがかなりありますが、豚肉から50gの炭水化物を摂るためには、約50kgもの肉を食べなければならないことになります。同様に、バターは20kgも食べる必要があります。そんなの不可能ですよね。
たとえばこのサイトみたいに「食品100gあたり」としたGI値リストもけっこう出回っているようですが、それにしたって、豚肉が同量のリンゴより血糖値を上げるとは絶対に思えないし、バターが同量の牛乳より血糖値を上げることはありえません。
さらに、上白糖のGI値を108としているものもかなり多いですが、砂糖はブドウ糖半分、果糖半分から成っており、果糖は肝臓ですぐに中性脂肪に変わってしまうため、血糖値をほとんど上げません。そのため、砂糖のGI値は60前後というのが正しいのです。
私がネットのGI値で信じられると思うのは今のところこのサイトぐらいです。信頼できるかどうかの基準は、肉やバターや卵のGI値が載っていない事、砂糖(しょ糖)のGI値が60前後であることです。
例のサイトから目ぼしいものを引用します。
●糖類
麦芽糖 | 110 |
ブドウ糖 | 100 |
蜂蜜 | 90 |
砂糖 | 59 |
ジャム | 55 |
果糖 | 20 |
●穀類
食パン | 95 |
ベークドポテト | 95 |
マッシュポテト | 90 |
シリアル(加糖) | 70 |
とうもろこし | 70 |
米飯(白米) | 70 |
パスタ(精白) | 55 |
玄米 | 50 |
シリアル(無糖) | 50 |
ライ麦パン | 40 |
パスタ(全粒) | 40 |
●菓子類
ポップコーン | 85 |
チョコレートバー | 70 |
キャンデーバー | 70 |
クッキー | 70 |
アイスクリーム | 36 |
ブラックチョコレート | 22 |
●乳製品
ヨーグルト | 36 |
牛乳 | 34 |
●野菜・果物
ニンジン | 85 |
ジャガイモ | 70 |
バナナ | 62 |
サツマイモ | 48 |
オレンジ | 40 |
フルーツジュース | 40 |
リンゴ | 39 |
大豆 | 15 |
緑黄色野菜・キノコ | <15 |
食後高血糖と糖尿病
ここしばらくの間、糖尿病の最新情報ともご無沙汰状態が続いていましたが、久しぶりにADAを始めとする糖尿病関連サイトを覗いてみました。
たとえば、「運動する糖尿病患者ほど長生き」だとか、「笑いは心臓病のリスクを減らす」だとか、「アクトスは心臓ばかりか目にもよくない」とか、いろいろ興味深い記事はあったのですが、ひとつ気になったのは『糖尿病ネットワーク』にあった「食後高血糖は早期治療でα-グルコシダーゼ阻害薬が有効」という記事です。
ご存知のようにα-グルコシダーゼ阻害薬というのは「ベイスン」や「グルコバイ」として知られる糖尿病薬のひとつで、炭水化物の分解を阻害して、小腸での吸収を遅らせたり、一部は吸収されないまま大腸にまで追いやってしまう薬です。
本来は糖尿病患者の食後高血糖を抑える薬なのですが、もしかしたら糖尿病の発症そのものを抑える効果があるかもしれないということで、試験が行われました。
耐糖能異常があり、高血圧、高脂血症、肥満、糖尿病家族歴がある、いわば糖尿病予備軍を2つのグループに分け、片やα-グルコシダーゼ阻害薬を、片やプラセボ薬を投与し、48週間(約11ヶ月)にわたって様子を見たということです。
その結果、48週間の間に糖尿病に移行した人の数は、α-グルコシダーゼ阻害薬群で40%も低かったのだとか。食後高血糖の抑制は、糖尿病の発症をも抑制するということが、この実験から明らかになったわけです。
しかし、食後高血糖を抑える一番の方法は、炭水化物の量自体を抑えることです。100食べた炭水化物を、薬の力で80しか食べなかったことにするのなら、最初から80しか食べなければいいだけの話です。
私としては、α-グルコシダーゼ阻害薬を投与する群に加えて、カロリー比40%ほどの低炭水化物食群と、食後、積極的に運動をする群もぜひ加えて欲しかったと思います。
いずれにしても、食後高血糖を抑えることが糖尿病の発症を抑制する効果があるのだとしたら、低炭水化物食や食後の有酸素運動も、間違いなく糖尿病の発症を抑制するはずです。
不思議なのはなぜそれを薬だけに頼ろうとするかです。もしかして、薬じゃない方法で病気を防がれては困る事情でもあるのでしょうか?
カロリー主義の崩壊
最近、久しぶりに某掲示板の糖尿病スレを見て思ったのは、糖質制限派が完全に主流を占めているということです。食品交換表に基づいたカロリー制限の話など、まったくといっていいほど出てきませんし、そんな話をしようもんなら、完全に総攻撃をうけそうな勢いです。
私が2年半前、はやりその掲示板を覗いていたときは、けっしてそんな状況ではありませんでした。もちろん、糖質制限派もいましたが、それに対する反論もかなりあり、糖質制限の正当性を正面切って主張するものは、異端者としてひどい叩かれようでした。
わずか2年ほどの間に、患者レベルの意識は大きく変わったといっていいでしょう。そして、おそらくこの流れは誰にも変えられないのではないでしょうか。
このような糖尿病治療の現場の急激な変化を見ていると、私はかつての社会主義崩壊を思い出さずにはいられません。
80年代の後半、ヨーロッパピクニック事件と呼ばれる出来事をきっかけに、大量の東ドイツ国民がハンガリー・オーストリアを経由して西ドイツへの亡命を果たしました。一人二人の亡命者なら、東ドイツ政府も射殺を含めた強硬措置に出ることが出来たのでしょうが、何千人、何万人の単位になると、もはやなす術はありませんでした。
この大量の亡命をきっかけに、やがてベルリンの壁が崩壊し、それまで社会主義という枠組みの中で苦しめられてきた多くの人が、自由主義の恩恵に預かることが出来るようになったのです。旧体制から新体制へのパラダイムシフト。それを推し進めたのは、けっして体制を司る上層部ではなく、一般市民の止むに止まれぬ行動だったということです。
糖尿病治療のための食事法においても、民衆レベルの動きは確実に進行しています。掲示板についてもしかり、ブログについてもしかりです。とにかく、カーボを意識した食事療法に取り組む糖尿病患者は、しっかりと結果を出しているので発言に説得力があります。その説得力が大きな流れとなって、世の中を動かしています。
しかし、気になるところがないわけではありません。掲示板を見ても、ブログを見ても、みなさん糖質制限一辺倒だというところです。私が採り入れ、世界でも主流となっているカーボカウントではなく、糖質制限食なのです。
ここでもう一度整理しておきます。
糖質制限食というのは日本の江部先生が提唱している糖尿病患者の食事法で、基本的には主食は一切食べない、おかずも糖質の含有量が多いものは避けるというというものです。このやり方に従うと、1日の摂取カーボ量は100g以下、カロリー比は20%を切ることになります。
一方、カーボカウントは炭水化物の割合を特に規定せず、食後血糖値や空腹時血糖値、さらには運動量などに応じて、摂取可能な炭水化物量を把握しようというものです。基本的には量とバランスの問題なので、食べてはいけないものはありません。
私は糖質制限食を否定するものではありません。糖尿病が発覚した当初、期間を限定して糖質を絶つ事はかなり有効だと思っています。しかし、それはあくまで緊急避難的なもので、一生続けるには、相当な無理があると思うのです。
現在、世界のあらゆる糖尿病治療において、一日のカーボ量が100g以下になるような食事を公式に認めているところは一つもないはずです。低炭水化物食の効果や安全性を確認するリサーチにおいても、たいていはカーボ比40%程度を、低炭水化物食と規定しているのです。
長い間、社会主義の抑圧に苦しめられた反動から、ロシアや東欧で極右やネオナチが台頭するように、いつまでもカロリー制限にこだわる日本でも、水面下で極端な糖質制限がはびこる危険を感じないではいられません。
カロリー制限からカーボ管理へという大きな流れを、より健全なものとして日本に定着させるためにも、日本糖尿病学会の一刻も早い意識の変革に期待したいです。チャウチェスクの例を見るまでもなく、旧体制にしがみついた指導者の末路ほど、惨めなものはありませんから。
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